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川崎市殺傷事件についての声明文を掲載しました。


川崎市殺傷事件についての声明文

2019年5月28日に川崎市で発生した事件について、被害に遭われた方、ご家族の皆様に謹んで哀悼の意を表する。

この襲撃事件は、全国の家族に「自分の子も、あのような事件を起こしてしまうのではないか」という衝撃を与えた。実際、内閣府の中高年ひきこもり実態調査のときよりも、事件の後のほうが当会への相談の問い合わせは増えている。

ただ、ひきこもり状態にある人が、このような事件を引き起こすわけではない。ひきこもる行為そのものが問題なのではない。むしろ、ひきこもる人は、職場や学校で傷つけられたり傷つけたりするのを回避した結果、他者との関係を遮断せざるを得ない状況に追いやられた人が多く、無関係な他者に対し危害を加えるような事態に至るケースは極めて稀である。

事件の背景に「ひきこもり」という単語が出てくると、メディアは「なぜここまで放置したのか」などと家族を責め立てるが、周囲が責めれば責めるほど、家族は世間の目を恐れ、相談につながれなくなり、孤立を深める。

報道によれば、親族は14回にわたって市の精神保健福祉センターに相談し、助けを求めるなど切実さを鮮明に示していたが、事件を防ぐことはできなかった。現実は、家族や本人の受け皿が十分でなく、あるいは困難な状況で放置され、適切な支援につながりにくい実態を示している。社会的に孤立せざるをえない高齢家族(8050問題)の深刻さを映した事件と言える。

ひきこもり支援は、制度と制度の狭間に置かれがちである。行政の縦割り構造をなくし、部署を超えた多機関で情報共有して、密な連携が取れる仕組みをそれぞれの地域につくることが喫緊の課題である。ひきこもる本人や家族の心情に寄り添える相談スタッフの育成も重要だ。

家族が、藁をもつかむ気持ちで、法外なお金をかけ引き出し屋といわれる支援業者に依頼する場合もある。しかし問題解決よりも、トラブルに見舞われることが多いのが現実だ。また、自己責任を問う風潮から、周囲の理解が得られず、「安心して相談したり、家から出ていける場がない」という声が当会に数多く寄せられている。大事なのは、同じ苦しみを抱えた仲間たちのいる家族会で分かち合いをしたり、本人が受け入れられる居場所とつながることだ。

今回の事件は、『ひきこもり状態だから』起きたのではない。社会の中で属する場もなく、理解者もなく、追い詰められ、社会から孤立した結果、引き起こされた事件だったのではないかと推察する。
また、同じような事件が繰り返されないためにも、今後、社会全体で、なぜこのような事件が起きたのかを考えていく必要がある。

メディアは、ひきこもる人、その家族の不安、偏見を助長するような報道は控えて頂くようお願いしたい。

2019年6月1日
特定非営利活動法人 KHJ全国ひきこもり家族会連合会
共同代表 伊藤 正俊 中垣内 正和