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KHJジャーナル「たびだち」106号(2023年初秋号)から、現代美術家 渡辺篤さんに聞く「人と人との関係にゴールはない」記事の一部をご紹介!


タイトル
渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)《月はまた昇る》
2021年(プロジェクト「同じ月を見た日」より)
写真提供:東京都現代美術館 撮影:大倉英揮

ひきこもり経験を持ち、孤独・孤立の当事者との共同制作「アイムヒア プロジェクト」を展開する現代美術家の渡辺篤さんが、2023年7月15日から東京都現代美術館「あ、共感とかじゃなくて。」展に参加している。渡辺さんに当事者を尊重する姿勢とアートへの想いについてお聞きした。

取 材:喜久井伸哉/本多寿行
構 成:喜久井伸哉
ポートレート撮影:瀧本裕喜

プロジェクト『同じ月を見た日』

(東京都現代美術館での展示風景)
このプロジェクトでは、コロナ禍で孤独を感じた人々に、月の写真の提供を呼びかけた。本作≪月はまた昇る≫では国内外のメンバーが、個別に撮影した月の写真60枚を使用している。写真を月齢ごとに並べ直し、スライドショーにして円形のスクリーンに投影。ほのかな明かりの中、月がゆっくりと満ちていくように観える。
渡辺篤さんの言葉……『僕がひきこもりのときには、昼はカーテンを閉めて過ごしていました。社会的な生産性が高まる昼間は、自分のための時間とは思えなかったのです。だけど夜は深呼吸ができるような、他とは違う感覚になれる時間でした』

■わたなべ・あつし/神奈川県生まれ。現代美術家。社会活動家。東京藝術大学大学院修了後に足掛け3年ひきこもりを経験。ひきこもりや孤立・孤独当事者と協働実践を行うアイムヒア プロジェクト主宰。2020年横浜文化賞 文化・芸術奨励賞。


僕のアートに必要なのは ひきこもる人への尊重

――渡辺さんの「アイムヒアプロジェクト」では、ひきこもりの人との協同制作を行っています。ひきこもり当事者と向き合うにあたって、気を付けていることはありますか?
僕は神経症的なまでに、当事者尊重を考えています。プロジェクトの中には、ひきこもっている部屋の写真を提供していただく作品や、過去の心の傷を言葉にしてもらう作品があります。僕がプロジェクトを始めようとしたとき、最初に「自分のひきこもり体験を公開しよう」と決めました。自分の傷を晒してからでなければ、ひきこもりの人と、フェアに出会えないと思ったためです。協力してくれる人を募集するときは、自分から参加してくれる人に限定しています。家族による推薦は禁止ですし、僕のほうから声をかけることはしません。アーティストは、参加者に対して特権性を手にできる立場です。僕はそれが怖いんですよね。たとえ、一輪の花を飾るだけだったとしても、誰かの悲しい記憶を刺激してしまうかもしれない。僕の表現が、誰かの痛みを大きくさせてしまうかもしれないのです。
アートの歴史においては、社会的な生きづらさを抱えた人をテーマにして、評価を得たアーティストもいました。中には、都合の良い部分だけを切り取って、当事者性を搾取していたケースもあります。
僕は作品をどこかに展示するたびに、必ず協力してくれた当事者に同意を得ています。メッセージや返礼品のやりとりが必要なので、制作時間の大半は目に見えないところにかかっています。協同してくれる人に対して、どうすれば少しでもフェアネス(公正さ)に近づいていけるか。僕はアーティストとして、いくらやっても終わりのない、「無間(むげん)地獄」に入ってしまいました。そのようになるほかないし、それでよいのだと思います。

社会的包摂の場として 美術館が居場所になる

――渡辺さんは、ご自身の作品が東京都現代美術館で展示された際、展示スペースで居場所づくりを行われました。ひきこもりの人にとって、どのような居場所が一番良いと思われますか?
ひとつだけの正しい答えは、出せるはずがありません。いろいろな種類の居場所が必要ですし、居場所を求めていない人だっているでしょう。それでも僕は機会があるごとに、美術館に一個の居場所を作ろうと思っています。
ひきこもりの当事者会の中には、当事者たちだけで運営し、半分クローズに行っている居場所がありますよね。それはとても大事な取り組みだと思います。一方で僕は、公共の場で居場所を運営することも「あり」だと思っています。社会がひきこもりの人のためになる場所を提供して、当事者以外の人と、当事者問題を考えていく方法も、必要なのではないか。公立の美術館は社会的包摂の意識があります。学芸員の中にも、社会から取り残される人が出ないための方策を考えている人がいます。僕は美術館に働きかけて、ひきこもりの人と協同するきっかけや、方法論を提供していきたいと思っています。

僕は「ふつう」という言葉を 何も考えずに使っていた



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※同展は、11月5日まで東京都現代美術館で展示されている。入場料は一般1,300円。障害者手帳をお持ちの方と、付き添い2名までは無料。