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「ひきこもり」全国推計146万人 50人に1人 内閣府調査を受けたKHJの見解


内閣府 こども・若者の意識と生活に関する調査 (令和4年度)

【声明】内閣府調査の実態データとKHJ調査データより.pdf

・15歳~64歳の生産年齢人口において推計146万人、50人に1人がひきこもり状態であることがわかった。また、5人に1人がコロナ禍の影響を理由に挙げ、ひきこもり状態になったきっかけは「退職」と答えた人の割合が比較的高いことなどから、何等かの社会情勢や社会的要因から、ひきこもりは、誰もがいつからでもなりうる状態像であり、自分や家族とも無関係ではないことが改めてデータで示されたのではないかと考える。

・女性のひきこもりが、40歳~64歳の層では52.3%と半数を超えたことも注目される(15歳~39歳では45.1%、40歳~69歳では40.6%)。実際、家族会には、女性当事者からの相談が増えている。「ひきこもり」というと、これまで男性中心と言われてきたが、伝統的な役割分担の価値観から声を上げられずにいた女性たちの間にも「自分もそうだったんだ」という認識が広がり、SOSを上げ始めた女性たちの姿が顕在化したと言えるだろう。実際、40歳~64歳の45.3%が、「専業主婦・主夫、家事手伝い、家事、育児、介護、看護」と回答している。これまで主婦・家事手伝いとされてきた人の中には、本当は夢や生きがいも追い求めたいのに、他者との関係が閉ざされたまま「女性だから」というジェンダーの差別と生きづらさを抱えた女性が多く含まれていたのではないかと考えられる。
・また、家族会の電話相談では、介護を担う本人からの悩み相談も増えてきている。介護離職との関係も示唆されるデータだ。

・就業経験は、15歳~39歳で62.5%、40歳~69歳で90.3%との結果が示された。ひきこもり状態の人の多くは、社会に出て何等かの就労を経験したのち、ひきこもり状態になっていることがわかる。
・15歳~39歳の自己認識の意識調査では、今の自分を変えたいと思う人は7割を超えた(75.7%)ものの、努力しても希望の職業にはつけないと思っている人も6割を超える(61.1%)。その背景に、「うまくいくかわからないことは取り組みにくい(失敗による叱責、過去の職場での傷つき体験など)」と考える人が63.9%にも上るなど、チャレンジしたくても諦めざるをえなくなる社会的状況があるのではないか。
当会の実態調査でも、就労意欲のある人は7割以上(74.8%)に上る。その反面、職場での傷つき体験が深刻なトラウマとなってしまっている方が数多くいることがわかった。具体的には、本人回答者の半数が、いじめ、パワハラ、暴言、暴力、叱責、非難、出来ないことや仕事が遅いことを執拗に責められる、上司や同僚とのコミュニケーションがうまくいかずに孤立、社会的空白の期間や過去の職歴の話題が苦痛、差別的発言、職場の無理解、長時間労働などを訴えている。人権侵害に当たる問題も少なくない。(当会の実態調査P116自由記述)。

・今回の内閣府調査では、こうした職場環境の要因として、人と仕事のマッチングに問題がある(自分にむいていない、やりたい仕事ではない 自分の才能や特技を生かせない)と考える人が3割(40歳~69歳)から5割(15歳~39歳)に上っていることが明らかになっている。当会が2022年度に行った実態調査からも、本人や家族が職場や働き方に求めていることとして、「情報伝達」「仕事上の配慮」「柔軟な働き方」「働きがい、やりがい」などが示されている。また、「オンラインやテレワークで働きたい」と思っている人も半数近く(47.2%)に上った。仕事におけるオンライン活用に対する理解促進が今後求められるだろう。これらのデータが示すのは、意欲のある人の就労機会を確保するためには、その人の特性やペース配慮した働き方、得意なことを活かせる仕事内容など、その「人」に合わせた職場環境、仕事づくりを創出していくことが重要であると言えよう。

・内閣府の担当者は「コロナで外に出づらく、オンライン授業やテレワークをできる状況が、ひきこもるきっかけになり得る」と見解を示しているが、当会の実態調査からは、コロナ禍によるオンライン化は、人とつながるきっかけや、情報収集、新たな選択肢を得たなど、むしろメリットだったという声が多い。
・ネット活用についても、内閣府の調査では、居場所(ほっとできる、居心地のいい場所)として、インターネット空間 を挙げた人は、15歳~39歳で72.9%に上った。今後、ひきこもっている人が活用しやすいネット空間を活かした資源づくりが求められているのではないか。

・家族や知り合い以外に相談したい人や場所への回答では、15~39歳「相手が同じ悩みを持っている、持っていたことがある」が53.2%と半数以上を超え、40~69歳でも41.5%という高い数値が示された。
この回答結果からは同じ立場の当事者同士、いわゆる「ピアの関係性」の中で、ひきこもりの苦しみや葛藤に寄り添い分かち合える安心感を必要としていることがうかがえる。
ひきこもりは長く「本人の甘え」「親の甘やかし」という偏見に晒され、それが本人の同意なく家から引き出す暴力的な対応や、無理やり就労につなげようとする支援に至った経緯がある。このような誤った偏見が本人や家族を苦しめ、本人の社会参画を阻害し、より苦しんでひきこもらざるを得ない状態に追い込んできた。
「ピアの関係性」においては、相手の問題を直そうとする支援―被支援の関係ではなく、互いに支え合い、学び合い、エンパワメントし合う、対等なかかわりの必要性が示されたと考えられる。
令和3年改正の社会福祉法において重層的支援体制の整備が位置付けられているが、ひきこもりの地域支援体制においては、このような互いの経験から支え合うピアサポート活動の充実が求められていると言える。

・相談支援のあり方として、「相談したくない理由」は、全世代で、「相談しても解決できないと思うから」という方が5割を超えた。次いで、世代別では、15歳~39歳「相手にうまく伝えられないから」(24.2%) 、40歳~69歳「嫌なことできないことを言われそう(25%)という回答が挙がった。また「自分ひとりで解決すべきだと思うから」は、両方の世代で、それぞれ21.4%だった。
このことからわかるのは、従来の「解決ありきの相談」体制の限界を当事者自らが感じていることである。また「相談できる相手がいない」という回答も、15歳~39歳では4割を超えている。「自分だけで、家族だけで解決しようとしなくても、いつでも誰でも助けを求めていい」という空気の醸成(啓発)が急務であろう。困難な状況から改善した要因についても、若年層は「家族や親戚の助け」(52.1%)という周囲の理解、高年齢層は「時間」(61.3%)が最多を占めた。期限を決めて社会に当てはめようとする支援ではなく、本人家族のニーズをしっかりキャッチし、それぞれのタイミングでSOSが言える受け皿を創っていく必要がある。当会の実態調査からは、つながり続ける支援(継続的支援、伴走支援)、個々に合った支援(オーダーメイド支援)を望んでいる声が非常に多い。「問題は解決しなくてもいいから、仕事だから仕方なくという事務的対応ではなく、親身に丁寧に話を聴いてほしい、信頼関係を作ってほしい」という声は、毎年非常に多く聞かれるところである。夜間・休日も相談できる場のニーズ、誰もが取りこぼされない体制づくりと、継続して長くつながり続ける支援が求められている。
また、具体的な困り事を問われる前にまず、今抱えている孤独孤立感(7割~8割の方が感じている)を少しでも和らげる、ほっとできる空間としての「居場所」や、寄り添おうとする「人」の存在が重要だ。支援者育成の根幹には、本気で本人家族の状況を受け止め、本人がひきこもる状況に至るまでの痛みや苦悩、不安を感じ取れているかなど真摯に理解を寄せていく姿勢と、信頼関係の構築が必要不可欠ではないだろうか。

・地域社会に対して
本調査結果は、地域社会全体に対して、ひきこもり状態への正しい理解と関心を寄せる契機となるはずだ。自己責任社会の弊害から、ひきこもらざるをえなくなった実態を伝え、「ひきこもり」の偏見をなくしていく啓発活動を続けていくことが重要である。内閣府の調査では、「将来に明るい希望を持てない」人が7割に上った。さらに自分が将来多くの人の役に立てるとは思えないという人は8割(79.2%)近くになる。現代社会のなかで将来への希望を持てずに、ひきこもらざるをえないなかで、状態像に対するネガティブイメージを解消し自分ごととして考えていくことが重要であろう。当会では、ひきこもっている人の人権が保障される「ひきこもり基本法」の制定を求めている。一度社会からのレールを外れても受け入れられる場や役割があること、自分らしく生き続けていくための選択肢があり、安心して居られる場や、仕組みづくりが必要である。それがすなわち、誰もがふるい落とされない包摂の社会づくり、誰もが希望を持って生きていける社会につながっていくと考える。

<実態調査における根拠法について>
国のひきこもりの実態調査は、今後は内閣府からこども家庭庁に移管され、実施される予定である。調査自体は39歳までの子ども・若者育成支援推法に基づくものであるが、調査対象者は40歳以上の中高年も含まれている。ここに矛盾が生じることを懸念する。当会では、従来から「ひきこもり基本法(仮)」の制定を訴えており、全世代に渡るひきこもり実態調査は、「ひきこもり基本法(仮)」に基づくべきであると考える。

以上

2023年4月4日
特定非営利活動法人 KHJ全国ひきこもり家族会連合会

参考:2022年度KHJ実態調査
オンラインを活用した ひきこもり支援の在り方に関する 調査報告書