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【第17回 KHJ全国大会in千葉 基調講演登壇!】KHJジャーナル「たびだち」99号(2022年冬季号)から、「抱撲」奥田知志さんインタビューの一部をご紹介!


「抱樸」奥田知志さん基調講演登壇!
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NPO法人抱樸・理事長奥田知志さん特集インタビュー「助けてと言える社会に」 「あんたもわしもおんなじいのち」人を大切にする、ひとりにしない支援 NPO法人抱樸の活動から生きる希望の源を考える
1988年から北九州を中心に活動しているNPO法人 抱樸(ほうぼく)。当初はホームレス支援から始まった活動も、様々な出会いの中で必要な支援を生み出し、現在では、子ども、高齢者、困窮者、障害福祉や刑務所出所者など、30近くの事業に及んでいる。人との関係を絶たれ、生きる意欲を失っている人たちに、もう一度希望の火を灯すにはどうしたらいいのか。そのすべてに共通するのは、助けを求める人を決してひとりにしない支援。モノやお金や制度だけではない、あなたに生きてほしい、あなたが必要だと言ってくれる人との出会い、寄り添ってつながって一緒に生きていくことを大切にしてきた抱樸の活動がある。困っていてもSOSが出せない、ひきこもっている本人や家族が「安心して助けてと言える社会」、「自己責任ではなく、みんなで支え合っていける社会」をつくるためには、どうしたらいいのか。抱樸の奥田知志さんの活動からそのヒントが見えてくるにちがいない。
聞き手
登坂 真代 KHJ横浜ばらの会会員 手作りおやつ工房とさか店主
池上 正樹 たびだち編集長 フリージャーナリスト
上田 理香 KHJ本部事務局
構成
鳥嶋えみり
1990年生まれ。中学在学時に不登校になり、「自由の森学園」に転校。
そこで演劇と出会った事が転機となり通学を再開した。
現在は「自由に生きる」をモットーに、ライターとして活動している。


■おくだ・ともし/NPO法人抱樸理事長、東八幡キリスト教会牧師。1963年生まれ。関西学院神学部修士課程、西南学院大学神学部専攻科をそれぞれ卒業。九州大学大学院博士課程後期単位取得。90年、東八幡キリスト教会牧師として赴任。同時に、学生時代から始めた「ホームレス支援」に北九州でも参加。事務局長等を経て、北九州ホームレス支援機構(現 抱樸)の理事長に就任。これまでに3500人(2020年3月現在)以上のホームレスの人々の自立を支援。
■とさか・まさよ/仕事・人間関係が続かず転職を繰り返し、ひきこもることのできない20代を過ごす。32歳でひきこもり、境界性パーソナリティー障害と診断される。「ひきこもったまま社会とつながろう」と自宅で開業し4年目。現在は工房の傍ら訪問介護に従事している。


解決型の支援が蔓延している

登坂 抱樸の活動では「断らない支援」をされていますが、みなさんいろいろな苦労をされていると思います。たとえば、怒りや憎しみがとても強いがゆえに、支援する側が疲弊していくという状況がありますが、困難なケースに対して抱樸さんはどのように対応されているんでしょうか?
奥田 これはまず支援というものの考え方が大事なんです。今までの「支援」という言葉に込められた思いは、いわゆる解決型なんですが、支援員、すなわち問題解決員というと、どうしても上から目線みたいになってしまう。また相談支援の現場では、支援員はすぐに主訴みたいなことを言ってしまいがちですが、人間そんな単純じゃない。家がないことに1番困っていたとしても、家をなんとかすればその人もなんとかなるのかって言ったら、ならないんですよね。そこで私たちは解決型の支援とともに伴走型の支援ということを言い出しました。伴走型というのは、解決が目的ではなく、「つながってるだけでいいんじゃないの」という支援です。解決型は引き受けたら解決しなきゃならないというところで、支援員がバーンアウトしてしまう。さらに困るのは解決型一辺倒でやっていると、クリームスキミングをし始めてしまうんですね。クリームスキミングというのは、「いいとこどり」という意味ですが、要するに困難ケースが来た場合、お断りしてしまう。これは解決という成果主義が大前提だから起きるんです。こういった現実が、相談支援の世界にはびこっていると私は思っています。

明日まで生きていればいい

奥田 制度というのは期間が限られていたり、結果を出さなければならなかったりしますよね。でも私は、そうじゃないと思うんです。当事者は問題を解決してそこから解放されたいということを求めながら、一方でひとりぼっちは嫌だという思いがある。であれば、「僕は解決できないけれど、一緒にいることはできますよ」と言おうと思い、20年ほど前から伴走型支援を始めました。
だから「断らない」っていうことを言う時には解決型の支援と、つながるだけでいいという支援、2つの支援の枠組みを頭の中にインプットしておくことが必要です。
それともう1つ。これを専門職の研修会などで言うとみんな嫌がるんだけど、伴走型は正直質より量です。すごい資格を持っている人が、俺に任せとけって言うのが専門職中心の解決型。でも伴走型は人数がいた方がいいんです。そうすると、怒りの矛先が分散されていくから。これを私は「質より量」あるいは、「ごまかしの支援」って言っています。ともかく今日1日ごまかそう、明日まで生きてりゃいいじゃないかと。そんなことをずっと言ってきました。

人それぞれの「とき」がある

奥田 私が牧師として礼拝を行う時に、「とき」の概念について話をすることがあります。新約聖書はギリシャ語で書かれているんですが、そのギリシャ語で時と言うと、まず出てくるのは「クロノス」という言葉です。私はこれを「時間」と訳すんですが、私たちはすべてその「クロノス」の時間で動いています。例えば、何時に飛行機がつくとか、このインタビューが何時に終わるとかいうものが「クロノス」です。
でも「とき」にはもう1つ、「カイロス」という言葉があります。これを私は「時」と訳します。これは、「その時にならないとわからない時」のことです。例えば、サナギが蝶々になる時とか、人が生まれる時とか、花が咲く時とか。それが「カイロス」です。つまり、時間の区切りがある解決型支援はクロノスが中心。伴走型はカイロスが中心。伴走型はいつかその時が来るのを横で一緒に待っている、みたいな感覚です。
それから、解決型では専門家が答えを握ることが多くなるんですね。だけど伴走型では、答えは関係性の間に生まれる。そしてそれを選びとるのが本人だと考えています。孤立状態にある人は、自分で自分がわからない人が多い。一緒につながってやっていくうちに、関係の中に答えが見えてきたら進もうという考え方も、この支援の考え方です。

社会の底が抜ける恐怖を感じる

登坂 どこの団体も人員や資金面など、いろいろなことに困りながら運営している中で、抱樸さんには全国から応援したいという方が集まっていますよね。特にコロナの緊急クラウドファンディングの時は、約1万人の方からの支援がありました。
奥田 あのクラウドファンディングでは僕も本当に励まされました。あの頃、僕は感染の恐怖よりも、この社会の底が抜けるということに恐怖していたんです。みんなが他者性を失って、自分がよければそれでいいという考えになってましたよね。ちょうどクラファンを始めるころ、トイレットペーパーが一斉になくなって争奪戦になったことがありました。政府は、トイレットペーパーはなくならないってことを訴えたんだけど、みんな自分のお尻のことしか考えない。人心が乱れる。人の心が引き裂かれていく。もう自分しかいない世界になっていくのを感じました。

コロナで皆が当事者になった

奥田 当時僕は、「変な風邪が流行ったくらいで、家も仕事も失うような社会はおかしい」と言っていました。リーマンショック以降に放置してきた脆弱な構造をなんとかせないかんということでクラファンを始め、支援にかかる費用を逆算し、最終的には全国10都市のNPOに800万ずつ配りました。コロナ禍ではすべての人が当事者になりましたよね。だからそういう意味でコロナはある意味平等だったんでしょう。コロナがまた来た時に、仕事を失っても家は失わない、そういうものをつくりたかったんです。

紛争をチャンスに変えていく

登坂 今の社会では分断や対立が、どんどん加速していますが、それをゼロにすることは無理だと思うんです。そういった前提のなか、どのように生きていけばいいのか、考えをお聞きしたいです。
奥田 それは、おっしゃる通りなくすことはできないと思います。例えばそれだけでは食えないけど、料理したら食えるものってありますよね。ホームレスの支援をやっていると、行くとこ行くとこで反対運動があるんです。だからと言って、それを権力で封じ込めても、決してなんの解決にもならない。だからそういう紛争みたいなものを、出会いのチャンスに変えていく料理ができるかどうかということではないでしょうか。
例えばオリンピックの小山田圭吾さんやDaiGoさんの発言にしても、彼らに対する批判はほとんど真っ当なものだったと思います。でも今の社会は、糾弾は得意になったけれど、和解のプロセスがないんです。宗教的な言い方だけど、僕はこれらの困難も神様がつくられたもので、無駄なものはないと思いたい。例え紛争的なことがあっても、そこで立ち止まって、なぜこの人はこんなに攻撃的になってしまうんだろうってことを考えると、実はその人の裏には不安や恨みがある。それをうまく和解のプロセスに乗せていくべきなのに、それがないんです。

確かに社会はありました

登坂 それって自己責任論に通じると思うんですが、自己責任だって言っている人たち自身も余裕がなかったり、ケアされない部分をもった大人だったりするのかなと思います。私、ちょっと前のユーチューブで釈徹宗さんとの対談を見たんですが。
奥田 苦労のたらいまわしっていうやつね(笑)
登坂 そうです。ケアする人もケアされて、苦労をぐるぐる回す。みんながちょっと引き受けて、また次に回すという。そういう社会になったら生きやすくなると思います。人はやっぱり1人で生きていけないじゃないですか。そこを私たちは忘れてしまってないかな、というのを日々感じていて。
奥田 そうですね。ある一定の個人は自分自身や身内にすべての責任を負わせるっていうのが、責任論の構造です。1987年に、イギリスのサッチャー首相が、「社会というものはない。あるのは個人だけだ」って言い切りました。ところが、去年ジョンソン首相がコロナになって復帰した時、「確かに社会はありました」って言ったんです。あの1987年から2020年まで、40年近い時を経て、やっぱり社会はあるってことを気づかせてくれたコロナって、偉いなと思います。だからコロナも料理次第で、無駄じゃなくなるんです。

ひきこもりと自殺の要因は一緒

奥田 僕は日本の親は偉いと思います。何十年もずっと子どもの面倒を見ている父ちゃん母ちゃん、偉いって、まず言いたい。でもね、もうお父さん、お母さんだけでやるのはやめよう。例えば、抱樸で言ったら、居住支援が得意なんです。住むところとか、仕事とか食うことは俺がなんとかできるから、父ちゃん母ちゃんは、月1回来て「お前、生きててよかったよ」って抱きしめてくれればいいと伝えたいです。
内閣府が数年前に発表したひきこもりの理由を見ると、その要因は自殺の要因とほぼ一緒です。そう考えると、ひきこもっているその人は20年前に死んでてもおかしくなかった。でも、生き残る手段として部屋に鍵をかけた。だから生き延びた本人にも偉いと言ってやりたいし、三食飯を運ぶ母ちゃんは、もっと偉いですよね。

当事者の言葉のほうが絶対にいい

登坂 当事者の方に対して押し付けにならないアプローチをどうしていくかということを考えるのですが、私としては、抱樸の生笑一座(いきわらいちざ)のように、経験を強みにして、胸をはって生きていってもらいたいという思いがあるんです。ただ、あなたのままでいいと言っても、そう思えない本人の気持ちもあると思います。そういう方に奥田さんだったら、どういうアプローチをされますか?
奥田 まさに生笑一座は、経験をキャリアに変えましたね。だけど、そうなるまでには、よっぽどの段階が必要だと思います。これは新しい施設をつくる時に起きた住民反対運動がきっかけになるんですが、僕が「もう支援者の言葉じゃだめだ。支援者はいいことしか言わないってみんな思い込んでいるから、ホームレス経験のあるあなたが喋ってくれ」と当事者の1人である西原さんに頼み込んだんです。実際、喋ってもらったら、これが抜群によかった。冬の寒さや食べられないひもじさを知らない僕よりも、本当に物を拾って食べていた、冬の寒さで寝れんかった人の話を聞いたほうが絶対にいいんです。そして、もっといいのは、今、その人たちが笑っているということ。でもこれはね、ひとつ先の話なんです。
もう1つはグラデーション(※段階的に変化していくこと)的な選択肢を、もっと社会が示すことだと思います。いろんな選択肢があって、いろんなグラデーションがある。そういうチャンスが担保されている社会なのか、ここで出てこないと自業自得だと言ってしまう社会なのか、そこが問題なんです。
決定的な解決策を探すよりも、数でごまかしながら、いろいろなチャンスを与えていく。そういうやり方が、僕はいいと思いますね。

「助けて」言葉のインフレを起こせ



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